理事長あいさつ

 
 
 この度、一般社団法人日本実験動物技術者協会(実技協)の理事長の任を拝命いたしました、中野洋子(なかのひろこ)と申します。就任にあたり、ごあいさつ申し上げます。

 実技協は、人の健康や福祉につながる科学研究の発展のために避けることのできない動物実験を、洗練された実験技術や適切な実験動物飼育管理などを通じて支える、実験動物技術者を主とする団体です。1966年7月に実験動物技術者懇談会として発足し、1975年4月に日本実験動物技術者協会へと発展的に改称・改組され、2017年には一般社団法人となりました。今期7期目を迎える実技協は、先達の方々が培ってきた活動を引継ぎつつ、社会に目を向けた活動も積極的に展開させていく所存です。

 昨今動物実験の実施を取り巻く社会環境は、国内外における実験動物に対する福祉的配慮の動向に大きく影響を受けています。動物実験に対しては、動物を用いない実験方法の確立を進めることが求められておりますが、現時点で全ての動物実験を廃止できるほど代替法が確立されている状況には至っておりません。2019年末からはCOVID-19の流行もあり、動物実験が新しい薬の開発や、症状の解明等に大きな役割を果たしたことは紛れもない事実です。このように、人の健康や福祉につながる科学研究において、動物実験の果たす役割は大きいものだと認識しています。一方、実験動物の福祉的配慮を進めることが、結果的に動物実験の再現性のある精度の高いデータ取得につながることも、近年の研究成果から明らかにされてきています。これから、更にこの分野の研究も進むものと考えられ、今や実験動物への福祉的配慮は、“愛護の気風の招来”のためだけではなく、科学的データの精度にかかわる重要な取り組みでもあると認識しています。

 国内では、2005年に「動物の愛護及び管理に関する法律」(動愛法)が改正され、動物実験の実施における3 Rの原則(Three Rs: 3 Rs)の遵守が明記されました。これによって、動物実験において実験動物の苦痛を削減するための実験手技の見直しや適正な鎮痛薬や麻酔薬の使用等について、関係のガイドラインが時々刻々と改訂されています。この改訂に従って、動物実験に携わる方々は、実施する実験手技についての見直しを継続して行う必要が生じています。2012年の動愛法の改正では、5つの自由(The five freedoms for animal: 5 Fs)の確保が基本原則に盛り込まれ、人間の飼育下にある動物のwelfareは欠くことができないものであるという認識が示され、実験動物の飼育管理等における福祉的配慮の必要性も示されました。これにより、実験動物の飼育管理等に関わる方々にも、福祉的配慮への改善が求められるようになったのです。

 わたくしども実技協の会員の多くは、職場において実験動物の飼育管理や実験補助業務等に従事し、日々実験動物に接しながら業務を行っています。言い換えると、実験動物に最も近いところから、専門性を生かした福祉的配慮を行える立場にあります。2010年に「実験動物福祉奨励賞」が創設され、翌年より年1回開催される本協会の全国総会で、職場における飼育環境の改善や実験動物福祉に関する発展的な技術開発等、実験動物技術者としての創意工夫の評価”と“洗練された専門的技術の創造と開発を行う技術者の奨励”を目的として表彰を始め、現在も継続されています。わたしたちは、実験動物たちの息づかいを直に感じながら、業務を通じて行い得る福祉的な取り組みを継続させていくことを目指しています。そのために、3 Rsと5 Fsの両面から必要となる新しい知識や技術の習得に努め、人の健康や福祉につながる科学研究を支えていくための活動を展開していきたいと考えております。

 一方、ここ20年間で動物実験を支える方々の雇用形態が大きく変化し、大学等における正規技術職員の定員削減や企業における業務の効率化の一環として、飼育管理業務の業務委託化や派遣社員・パートでの起用などが進んでいます。この雇用形態の変化は、実験動物技術者等の知識および技術習得の場の確保にも変化をきたし、求められる専門性の向上や維持、次世代への技術の伝承を行うには、今までとは異なる対応が必要な状況になってきていると感じます。

 実技協は、実験動物の福祉を護るためにも、動物実験を支える方々の支援にも積極的に取り組んで参ります。そのために、より広く関連する学会および協会の方々との連携も進めていきたいと考えております。



 2023年3月13日

一般社団法人日本実験動物技術者協会 
理事長 中野洋子